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()らないコトバでも、漢字(かんじ)()いてあれば意味(いみ)がわかるか?
ユズリハ サツキ 
 【漢字廃止論への批判】
 知らないコトバ、初めて見るコトバでも、漢字で書いてあれば意味がわかる。たとえば、「動物園」「水族館」などは、漢字を見れば小学生でも何のことかわかるだろう。これを見ても漢字の便利さは明らかではないか。

 【回答】
 知らないコトバ でも、漢字で書かれてあれば、その意味のおおよその見当をつけられることがある、ということは否定しません。しかし、つねにそうかというと、それは違うのです。

 初めに、質問者があげた例で考えてみましょう。これは、「どうぶつえん」というコトバは知らないが、「動」「物」「園」という漢字は知っている、という場合を想定しているのですが、この想定はあまりにも非現実的です。オトナはもちろん、漢字を習う前のコドモでも「どうぶつえん」が何であるかは知っています。

 また、「動物園」という漢字3文字から「どうぶつえん」という意味が確実にわかる、などということも、よく考えるとありそうもない話です。まず、「動物園」という3字熟語を初めて見た人がこれが[動]-[物園]でも[動]-[物]-[園]でもなく、[動物]-[園]という構造になっていることがすぐに判断できたとしたら、それは、偶然でしょう。それが判断できたとして、「動物」は何だということになりますが、これも「アニマル」の意味だと正しく理解できたら、それも偶然でしょう。「動く物」は、ライオンやゾウばかりではありません。自動車も時計の針も、ときには大地だって「動」きます。「園」にしても色々な意味があります。「動物園」を「動く乗物のある遊園地」と考えても不思議ではありませんし、「果樹園」などから類推すれば、「動物の飼育(だけ)を目的とする場所」と考えるかもしれません。

 「どうぶつえん」というコトバを知らない人が「動物園」という字を見て、その意味がわかる、などということはありえない、あったとしてもそれは偶然が積み重なった結果である、ということがおわかりいただけたことと思いますます。「水族館」にしても同じです。「水族」というコトバ自体あまり使われませんが、「空族」、「地族」などというコトバも存在しませんから類推もできません。「水族」とは、「水辺で生活する民族」とも考えられうるでしょう。

 このように漢字を見ればコトバの意味がたやすくわかるなどというのは思い込みでしかないのです。

 むしろ、漢字に頼ってコトバの意味をとらえようとすると、かえって、意味を取り違えてしまうことがとても起こりやすくなります。「人口」は「人の口」という意味ではありませんし(「鶏口」は「鶏の口」ですが)、「物色」は「物の色」ではありません。「先生」が生徒より「先に生まれた」とは限りません。「麦」からつくられた「酒」は「麦酒(ビール)」だけではありません。 ウイスキーがそうですし、麦ショウチュウもあります。

 場合によっては、命にかかわることさえ起こりかねません。「食間」を「食事と食事の間」ではなく、「食事をしている間」のことと誤解して、食事中に薬を飲んでしまう人は特に珍しくないそうです。また、「座薬」を「座って飲む薬」と思い違いをして、実際にそうしてしまった人さえいる、と聞いたことがあります。

 まとめましょう。「動物園」という漢字を見て「どうぶつえん」のことであると理解するのは、その漢字から直接意味をつかんでいるのではなく、「どうぶつえん」というコトバを知っており、かつ、それを「動物園」と表記する、という知識があるからできることなのです。漢字さえ知っていればコトバの意味がわかる、などというのは、間違った観念、迷信にすぎません。逆に漢字の意味に惑わされてコトバの本当の意味がわからなくなることがあるのです。

 (『カナノヒカリ』 945ゴウ 2009ネン アキ)(一部書き改めた。)

(このページおわり)