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カタカナ()ハン濫(はんらん)したのは漢字(かんじ)制限(せいげん)原因(げんいん)か?
ユズリハ サツキ 
 【国語改革への批判】
 現在、日本語にはカタカナ語が氾濫(はんらん)しているが、これは戦後の漢字制限によって、漢語が衰退したことが原因ではないか。

 【反論】
 漢字制限が 「カタカナ語(ヨーロッパ語系外来語)」のハン濫の原因だ、という主張は漢字擁護派の人々により繰り返しなされ、漢字制限に対する攻撃の材料にされてきました。しかしこのような主張には、はたして根拠があるのでしょうか。

 まず指摘しておきたいことは、カタカナ語とよばれるものは戦前から、つまり漢字制限が行われる前から、数多く使われていたという事実です。たとえば、バター、チーズ、レコード、トラック、ピアノ、バイオリン、ビール、ボート、ダンス、ペン、コンサート、ストライキ、エチルアルコール、サーベル、カメラ、モダン、エレベーター、ライオン、モーター、ドラマ。

 これらはみな戦前から使われているカタカナ語ですが、いずれも漢語(中国語系外来語または和製中国語)で乳酪、乾酪、音盤、貨物自動車、洋琴、提琴、麦酒、短艇、舞踏、洋筆、演奏会、同盟罷業、酒精、洋剣、写真機、現代的、昇降機、獅子、発動機、演劇、と表わしうるものです。(その多くは現在の常用漢字にも取り入れられているやさしい漢字であることにも注意してください。)

 外国語を新しい漢語を作って訳すのではなく、そのままカタカナで書き表わす、というのは漢字制限が行われていない時代から広く見られた現象なのです。つまり、漢字制限がカタカナ語のハン濫の原因である、などというのはまったくの見当違いなのです。

 しかし、カタカナ語は戦後になって増える勢いが増したことも事実です。これについては漢字制限が多少なりとも影響しているのではないかと思う人がいるかもしれません。

 では、戦後現れたカタカナ語について、それらが漢字制限によって漢語作りが妨げられた結果生まれたものであるか否かを考えてみましょう。

 思いつくままに比較的新しいカタカナ語と漢語の訳語を挙げてみます。マルチメディア:複合媒体、バイオテクノロジー:生物工学、リストラ:再構築、インフラ:経済基盤、アニメ:動画、ワープロ:文書作成編集機、コミュニティー:地域社会,共同体、アイデンティティー:自己同一性、トライアスロン:三種競技、キャッシュ・ディスペンサー:現金自動支払機、バーチャル・リアリティー:仮想現実感、エイズ:後天性免疫不全症候群、アメニティー:快適度、シンセサイザー:電子音合成装置、パートタイマー:非常勤勤務者、フリーズ・ドライ:凍結乾燥、エアコン:空気調節装置、スプリンクラー:散水装置、フォーラム:公開討論会。

 必ずしも適切な訳語ではないかもしれませんが、大概の場合、常用漢字の範囲で表わしうることはお分かりのことと思います。

 仮に漢字制限をゆるめて、使える漢字を2倍にしたとすれば、漢字2字で造語するとして、作りうる漢語は4倍になり、ずっと漢語を作りやすくなる理屈ではあります。しかし、実際には当用漢字や常用漢字は使われる頻度を考えて選ばれたのですから、それだけでもたいてい間に合うのです。それに常用漢字2字の組み合わせだけで3,783,025とおりもあるのです。

 戦後カタカナ語がますます数を増したのも漢字制限のためとはいえません。上に見てきたように、漢字制限のために漢字の造語力が衰えて、それがカタカナ語がはびこる原因になったのではなく、別の原因によって外国語が好まれるようになり、漢語に訳す意欲が衰えたのです。それは、いうまでもなく、ヨーロッパやアメリカとの文化的・政治的交流から生まれた現象なの です。


 〔参考〕「カタカナ語がはびこるのは漢字制限のせいか」(キクチ カズヤ 「カナノヒカリ」 1995年 1月号)

 (『カナノヒカリ』 937ゴウ 2007ネン アキ) (一部書き改めた。)

(このページおわり)