「カナノヒカリ」 876ゴウ (1996ネン 3ガツ)

〈トップページ〉ヘ 〈カナモジカイの主張〉へ 〈機関誌「カナノヒカリ」〉へ
          

市町村名はカナ書きが望ましい(1)
〜「幸手市」の場合〜

                                             フジワラ タダシ 



  1995年8月19日の 読売新聞の 夕刊の 社会面に 「市の名前は『さって』デス」と いう 記事がのった。埼玉県の 幸手市が ナマエを まちがえて よまれる ことが おおい ため、市の ナマエと その フリガナを すりこんだ 名刺を つくって 宣伝に のりだす と いうので ある。
  市の 名刺を つくって くばる と いうのは おもしろい アイデアだと おもうし、ソレナリの 効果は あるだろう とも おもう。しかし 漢字と いう ものは もともと ヨミカタが イクトオリも ある もので あるから、漢字で かいて それを ただしく よんで ほしい と いうのが ドダイ 無理なのでは ないだろうか。だれにも ただしく よめるように するには カナで かくしか ない。
  ところで 「幸手」と いう 地名は もともと 「かわいた 土地」を 意味する アイヌ語 「サッツ」から きて おり、戦国時代から 「幸手」の 字が あてられるように なった と いう。が、漢字を あてた ために アイヌ語に 由来する と いう 事実が かくされて しまって いる。と いう ことは この 地方に アイヌの 文化が 存在して いた と いう 歴史的 事実 ―― それは 決して わすれられては ならない 事実で ある ―― が おおいかくされて いる と いう ことでも ある。その 意味でも カナガキが のぞましい。モチロン カナで かいたからと いって アイヌ語起源で ある ことが しめせる ワケでは ないが、由来を しらない ヒトには どんな 意味 だろうか と いう 興味を そそるで あろうし、つよい 印象を あたえ、市の 宣伝に なるのでは ないか。
  カナガキの ナマエなど オモムキが ない と おもわれるかも しれないが、漢字で かいたからと いって 一体 どう いう 意味が あるのか。漢字は 表意文字で ある と いう ことから 漢字で かいて あると 当然 なにか 意味を もつように おもわれるが、あらためて かんがえて みると なんの 意味も ない 空虚な コトバで ある ことが すくなく ない。「幸手」の バアイ 「『幸』せな『手』」とは 一体 どういう 意味なのか クビを かしげざるを えない。もともと アテ字なの だから、意味の ある ワケは ないのだが。かつては 「薩手」と いう 別の 字が あてられた ことも あった(*1) と いう ことでも あるし 「幸手」と いう 漢字に こだわる 必要は ない と おもう。「幸」と いう 字が つかわれて いるので それだけで ハッピーで よい と いうような ものでも ない はずで ある。
  幸手市とは なんの 関係も ない ワタシが このような ことを いうのは サシデがましい との オシカリを うける かも しれないが、幸手市を とりあげたのは ヒトツの 例として で あって、どの 市町村に ついても ―― すでに カナガキして いる 市町村を のぞいては ―― いえる ことで ある。
  もう ヒトツ 別の 例を とって みよう。
  「神戸」と いう 地名を どう よむか。「コウベ」に きまって いる と おもわれるかも しれない。が、実は 「神戸」と いう 地名は 各地に あり (市町村の ナマエとして つかわれて いるのは 兵庫県の 神戸市だけだが)、その ヨミカタは サマザマで ある。「カノト」、「カミト」、「カミド」、「カンド」、「カンベ」、「ゴウト」、「ゴウド」、「コウベ」、「ジンゴ」、「ジンド」 と いった 具合で ある。(*2) 神戸市は だれでも 「コウベシ」と ただしく よめるだろうが、それは 神戸市が よく しられた 大都市で あるからだ。そうで なければ 字を いくら みつめても ヨミカタは 決して わからない だろう。
  くりかえすが、漢字 かかれて いる かぎり 地名を ただしく よむことは ―― 特に 有名な トコロで ない かぎり ―― むずかしい と いう より 不可能で ある。ナマエを ただしく よんで もらえない と いう ナヤミを もつ 市町村は いくらでも あるだろう。そのような 市町村は ゼヒ ナマエの カナガキを 検討して いただきたい。
  漢字ガキの 市町村の ナマエを カナガキに あらためる ことは 実際には サマザマな 問題が あり むずかしい ことで あろうが、市町村の 合併などで アラタに ナマエを きめる バアイは よい 機会で あろう。最近では ―― 漢字も まざるが ―― 東京都の 「あきる野市」の 例が ある。


  *1 竹内理三 編集『角川日本地名大辞典』第11巻(角川書店 1980年)
  *2 日外アソシエーツ(株)編集『現代日本地名よみかた大辞典』第5巻(日外アソシエーツ 1985年)


〔原文は、「カタカナひらがな交じり文」〕


このページのはじめへ